こども政策の強化に関する関係府省会議(第4回)
概要
- 開催日時:令和5年3月22日(水)16時40分から18時30分まで
- 開催場所:官邸2階大ホール
議事
- こども政策担当大臣あいさつ
- 有識者ヒアリング
「働き方改革の推進とそれを支える制度の充実」
安藏 伸治 明治大学政治経済学部専任教授
明治大学付属明治高等学校・明治中学校校長
伊藤 翼 イクメンスピーチ甲子園2020年度優勝
NPO法人育Qひろば代表理事
櫻井 彩乃 GENCOURAGE代表
筒井 淳也 立命館大学産業社会学部教授
配付資料
- 資料1:安藏伸治氏御発表資料(PDF/4.56MB)
- 資料2:伊藤翼氏御発表資料(PDF/2.10MB)
- 資料3:櫻井彩乃氏御発表資料(PDF/11.5MB)
- 資料4:筒井淳也氏御発表資料(PDF/1.23MB)
- 参考資料1:参考資料集(働き方の推進とそれを支える制度の充実)(PDF/14.1MB)
- 参考資料2:こども政策の強化に関する関係府省会議第3回議事要旨(PDF/648KB)
議事要旨
(1)こども政策担当大臣あいさつ
- 先週17日、岸田総理が記者会見を開き、基本理念等を示された。それらをしっかりと受け止め、漸進的な対策にとどまらず、長年の課題を一気に解決に向けて前進させ、子育ての不安を払しょくすることができるよう、今月末目途のたたき台の取りまとめに向け、鋭意努力してまいりたい。
- 本日は、「働き方の改革とそれを支える制度の充実」について、男性で育休を取られた30代の伊藤さん、若者の声を届けてくださる20代若者の櫻井さん、研究者の筒井さんから、「何に困っているか」、「どういう制度があるとよいか」、「誰の意識を変えてもらいたいか」など、率直なご意見を伺いたいので、よろしくお願い申し上げる。
(2)有識者ヒアリング
イクメンスピーチ甲子園優勝(2020年度)、NPO法人育Qひろば代表理事 伊藤 翼氏から、資料2に基づき説明があった。
GENCOURAGE代表 櫻井 彩乃氏から、資料3に基づき説明があった。
立命館大学産業社会学部教授 筒井 淳也氏から、資料4に基づき説明があった。
(3)質疑応答・意見交換
(構成員)
- 男性の育児休業取得率は、令和3年度で、民間事業者は13.97%と非常に低いが、国家公務員は、62.8%に達しており、令和元年度の28%程度から令和2年度に51.4%へと劇的に上がっている。これは、杉田前官房副長官が各府省の事務次官に厳命されたことが大きいとされているが、民間企業には、各企業の社長を束ねるような方がいないことを鑑みると、男性の育休取得率の向上のためには、先日の総理会見で言及された具体策を実施することとあわせて、各企業の経営者の意識改革が必要ではないか。経営者の意識改革にはどのようなことが必要か、具体的なアイデアがあれば教えていただきたい。
(筒井氏)
- 自治体の男女共同参画に関する会議において、経営者も含めて様々な話を聞くと、組織の規模によって違いがあることに気づく。大企業の空気と中小企業の空気は違うところがあり、大企業の方は経営トップの方が率先してやれば進む一方、中小企業の場合、ある程度は経営者の意向で進むこともあるが、「ぎりぎりでやっているので無理だ」というコメントも聞く。これは解決しづらい問題で、欧州はそういう企業しか残れない状態を作っているが、一部の欧州社会のように「企業には厳しく労働者にはやさしい」という空気は日本ではまだ作れず、ドラスティックなことができない。「労働者の権利が十分に与えられない企業は退出してください」というメッセージまでは日本では出しづらく、やれることをやるしかない。その中で、中小企業にとって両立支援や育休取得がやりづらいというコメントに対して、例えば、同程度の経営規模・利益率の企業でできているノウハウを、自治体の仕組みを利用するなどして共有するのがいいのではないか。取り上げ続けていれば、うちでもこれならできるという対策が出てくるかもしれないので、そういった仕組みづくりが一つ考えられる。
(伊藤氏)
- 経営者から、定期的なメッセージを出し、何が必要かということを自分の言葉で伝えることが必要ではないか。私は600名程度の会社に出向し、中間管理職から部長、役員など約100名の管理職向けに男性育休のセミナーを実施した際、研修を受けるだけではなく、そこでのコメントを社員に発信してもらった。これに対し、部長がそういうことを考えていると初めて知ったというコメントがあったなど、管理職は伝えているつもりでも、業務の忙しさなどで職員になかなか伝わっていないところがあった。管理職向けセミナー後、管理職から職員に育休を取るといいよと発言が出た後に、社員向けに育休普及セミナーをすると、なかなか言いづらかった若い20代の職員が育休のことを言ってくるようになった。管理職や中間管理職の方たちに理解いただいていることが伝わると、風向きが変わると思う。
(櫻井氏)
- 地域の男女共同参画計画を作る中でも男性育休の話が上がるが、商工会議所のメンバーの男性からメリットがないと言われて文言が消されてしまうことが多い。地域によって違いはあるかもしれないが、男性育休の推進は男女共同参画の部署が担当しており、地域の企業に強く言える材料を持っていないということがあるのではないか。地方や中小企業では代わりの人員がいないとか、「嫌なら転職すればよい」と言う経営者もいると聞く。情報がまだ地方や小規模の企業には届いていないと思う。筒井先生がおっしゃったような、どうやって埋めていくのかといった情報発信を国で行ってほしい。
(構成員)
- 今のお話を聞いていて、総理も賃上げを表明しているが、せっかく政労使の仕組みがあるので、むしろ、賃上げよりも育休取得や雇用環境の整備について政府として言ってもよいのではないか。
(構成員)
- 男女ともに子育てとキャリアを両立させて能力を十分に発揮する社会の実現が重要だが、国際的にみると、日本では家事や育児などの無償労働が女性に偏っている現状がある。固定的な性別役割分担のような、意識に根差した制度や慣行を改めていくことが必要。あわせて、こどもを持つことを選択できない人への配慮も必要であり、不公平感がない政策作りが大事。現在、L字カーブについて別の会議で議論しているが、子育て期のみならず平時から多様で柔軟な働き方を選択できることが必要ではないかという話をしている。短時間勤務の導入により女性が継続就業できるようになってはいるが、そもそも正社員の働き方や転勤を前提とした雇用管理の見直し、男性の家事育児時間の拡大が非常に大事ではないか。これまで以上に強い働きかけを行い、男性自体のライフスタイルを変えていくことも必要ではないか。また、今日も意見が出ていたが、子育ては女性がするものという根強い社会規範を前提とすると、例えば子育て期に時短勤務を推奨するための給付金が議論されているが、ますます女性がマミートラックに追い込まれてしまう問題が生まれることも踏まえて、綿密な制度設計をすべきだという意見もあったので、ご紹介させていただく。
(構成員)
- 育児休業制度全般について伺いたい。特に現場の声ということで、資料2の10ページに、日本の育児休業は制度で世界一という評価もあるが、制度の使いにくさや突発時等の自己対応など、まだまだ制度としてきめ細かいところでは改善の余地があると思うが、伊藤氏、櫻井氏に、何か提案や感想があったら教えてほしい。
- 時短勤務については、育児休業給付でも一部対応しているが、部分的な就業が選択できることは重要と考えている。資料4の8ページにおいて0歳児保育に言及されたが、夫婦2人の育児休業とキャリア継続の観点から考えると、0歳児の期間をどちらかがずっと休業するというよりは、少しずつ時短しながらキャリアをある程度断続なく過ごすという考え方もあるが、こうしたオプションやそれを支える制度としてのご意見を筒井教授に伺いたい。
(伊藤氏)
- 制度に関しては、病児保育の時に夫婦でどうしようかと思ってしまう。こどもをどうしようか、職場に対してどうしようかと、ステップがあるので、職場に病児保育の制度があると、職場への説明も預ける手間も1回で済むのでありがたい。また、上司に制度すべてを理解してもらうのは難しいが、そもそも制度や必要性を理解してもらうために時間を使わないといけないこともある。制度を理解している相談窓口があり、その相談窓口から上司に伝えてもらう制度があってもよいのではないか。
(櫻井氏)
- 若い人に聞くと、男性育休がとれるようになってきたのはよいが、一週間程度の長さではなくて女性と同じくらいの長さが取得できる、あるいは交互に取得できることを希望している。しかし、上司のストップが入って、取れて数日、長くても1~2か月になってしまったり、育休後復帰したら居場所がなかったりする。もちろんよい企業もあると思うが、そういったそもそもの部分が解決されておらず、数週間取って「男性育休だよね」という世の中の感覚に、もやっとしたり、男性が男性育休に怒る要因となっているのではないか。まずは上司が理解することは必要であるし、一定期間、男性が育休を取っていい、もはや取らなければいけないということを示してもらうことが非常に重要。育休が取った人が損をして、賃金が下がる。また、女性が男性よりも賃金が低いことが盾にされてしまうので、育休を取得してもウィンウィンとなるような制度にすることが重要。実際の声にもあるが、今すぐは難しくとも、そういったところを目指してやってほしい。
(筒井氏)
- 保育か休業かはケースバイケース。少子化対策の文脈では保育が大きいのではないかという専門家の知見もあるが、0歳児保育のコストは大きいので、欧州では休業と組み合わせることで落ち着いている。0歳児に休業対応するとなると、理想的なのは限りなく柔軟な制度。人によってどのくらい休業を取りたいか、配偶者の都合とどういうふうに組み合わせたらよいかは千差万別。柔軟であるほど取りやすいことは間違いない。一方で、制度が柔軟であるほど人々が制度を理解しきれない。今の制度でも、国民に理解度の問題を出したら点数がそれほど得られない複雑な制度になってしまっている。また、人事担当者が説明しないといけないというコストとの兼ね合いがあるので、柔軟にすればするほど利用されなくなる。ある程度分かりやすさを担保しつつ、典型的にはこういうパターンがある、というのが人事担当者にも伝わるモデルを示すことが重要。厚労省のサイトを見ても、様々なパターンを紹介し、分かりやすいイラストを使っているが、せめて企業の担当者が余裕をもって社員に説明する、柔軟な制度を使えば働き方を中断することなくある程度休業を取りやすくなる仕組みが可能ではないか。柔軟であればあるほどいいが、柔軟な制度は現状でも理解されていない問題があるので手当が必要。それをしながら交代でやるか時短でやるか部分休業を活用するのか、改善の余地があるのではないか。
(構成員)
- 柔軟な制度と分かりやすい説明の両立は確かに難しい。現場の労働局で制度をやっているが、今回の制度改正は職員にとっても難しいという状況になりつつあり、課題と感じている。
(櫻井氏)
- 若い世代にヒアリングすると、男性育休がまだ制度としてないと思っている人もいる。そもそも国の少子化対策や働き方の制度が一定のところでストップしてしまって、若い世代はSNSに上がるネガティブなことばかり見ているので、日本は何もやってないじゃないか、で終わっている。女子学生だと女子学生用の就活講座があるが、男子学生向けの講座ではまだあまり取り上げられていないので、将来を考えるタイミングでそういった制度がある、使えるかもしれない、また、部下ができたときに使わせるような意味も込めて、これから育休を取るであろう方の目につくよう、情報を出すところを広く、若い人にも知ってもらう場所で啓発してほしい。
(構成員)
- 伊藤氏のPRと情報発信の提案をさせていただきたい。厚労省では、民間の方々とイクメンプロジェクトを進めてきており、伊藤氏が優勝したというイクメンスピーチ甲子園も、男女で一緒にこどもを育てよう、一緒にキャリア形成しようという意識啓発や情報発信を13年間やってきて取組の一つ。政策に関する情報発信はなかなか追い付いていないが、自治体や企業が実施する両親学級の中に、伊藤氏の写真やエッセイなどを織り込ませていただくなど、ご協力をいただいている。来月にこども家庭庁が発足し、国民の皆さんへの発信がより一層大事になっていくが、役人が説明すると、法律の趣旨や条文説明など制度に寄りかかった説明になってしまう。伊藤氏や櫻井氏のように、役人とは目線の違うところから、人間としての実感がこもったすばらしい発信をしていただける方がたくさんいらっしゃると思うので、今後、こども家庭庁発足後はこうした国民の方々に発信していただくのもよいのではないか。
- 先ほどの筒井教授の議論で、制度を柔軟化すると難しくなるとの示唆もいただいた。実際、企業の人事部にものすごく負荷がかかっており、労働局が積極的に取り組んでいる企業にヒアリングしたところでは、労働法制も社会保障制度も複雑化する中、人事担当の方が正しく勉強して説得できるよう伝える、また必要に応じて労使協議の手続きを尽くすことがとても大変だという声が上がってくる。その上で、ある意味、会社を離れれば赤の他人である従業員のプライバシーに、企業の人事部が入り込んでいかざるを得ないことが増えている。日本で施策を進めるときに気を付けることなどの示唆をいただきたい。
(筒井氏)
- 難しい課題。理想的に解決できている国はなく、どこも苦労しながら試行錯誤しているのではないか。強いて言えば、働き方全般に余裕があれば、働き手も人事部も余裕ができるので対応しやすいのではないか。また、自治体職員が出張して説明するなど、自治体と連携した取組も一つ考えられる。
- さらに根本的に言えば、教育の段階で示す機会があってもよいのではないか。家庭科教育ではある程度、両立支援の話も入っているが、まだ十分に伝わっていない。働き方に関する基本的な理解、労働者の権利などが、大学生には伝わっていないし、縁がないと思って卒業する学生も多いが、実際には理解する必要があるので、教育段階でできることについて改善の余地があるのではないか。
(伊藤氏)
- 仕事と家庭の境目がなくなり始めていて、そこに人事がどう介入するかはまさに課題。その課題に対して、私はオンラインコミュニティを作った。両立で悩んでいて会社には言えないが、悩みを言い合える仲間がいる、自分だけじゃないと思える、いわゆる孤立していない状態を作ることが解決策の一つだと思う。また、私の場合は周りに男性育休を取った人がいなかったが、ワーママさんたちから両立のノウハウを聞き、アドバイスを受けた。答えは現時点でないが、仕事と家庭の境界線がなくなったことで、ワーママさんたちが新たな付加価値を生み出せるところにきているのではないか。
- さきほどイクメンスピーチをご紹介いただき大変光栄だが、私は実は出場したくなかった。出場するとたたかれるので嫌だったが、ママさんたちが、私が自分から半年も育休を取って楽しいと発信しているのを聞いて応援してくれ、その恩にどう報いることができるかと考えて、スピーチに出場した。ただ、そこがゴールではなく、ここから先どう変えていくかが重要。男性育休をみると、私の先輩や近い後輩からは、どうやって取ったのかとノウハウを聞かれる。一方、大学生からは、なぜ男性育休を取らないのかという質問を受ける。そういう学生が企業に入ったとき、取りにくくて転職するという事がないようにと思う。もう一つ、両親学級に出たとき、男性がサポート目線というのが気になっている。おむつ替え、ミルク、沐浴などの単独スキルができればよいという感じだが、育児はそうではなく、朝から夜までトータルで面倒を見るべきであるのに、こうした着眼点が欠けている。また、仕事と子育ての両立について実例を知らないという課題があると思うので、社内のモデルケースの方が発信できるような制度も必要。私世代やもう少し上の世代の男性陣は、地域で講座があってもなかなか行かないが、会社で案内が来ると結構受講する。大切なのは、受講するだけではなく、受講後に上司と当事者が歩み寄って、社会と家庭、職場にもたらすメリットを話合うことを促すなど、一歩踏み込んだことができるよう促すことが大事。
(櫻井氏)
- ツイッターのダイレクトメッセージで、男子学生から、どうやって育休を取得できる会社を見つけたらよいかという相談がよく来る。結婚するかしないか、またこどもを将来選択するかどうか分からないが、若いうちは転職することが難しいのでないかと思い、ひとつの会社で過ごせるようにと思って就活するも、男性育休の取得率などの情報はあまり載っていない。自分の就きたい職業と、育休を取りたいなどの自分の進みたい将来像に結構ギャップがあって、どっちを選んだらいいか、悩んでいる人が最近多い。制度が柔軟ではない企業は学生に選ばなくなっているのではないか。また、地方の企業は選ばれなくなるのではないかと思う。
(構成員)
- 伊藤氏が育休を取られた話を含め今日のお話を聞くと、制度がいくら充実していても、その制度を運用する組織の意識によるところが大きいと思う。直属の上司が理解してくれない、同僚部下から暗に迷惑というメッセージが伝わるなどがあり、また、テレワークも理解ある部署とない部署がある。こうした中、トップがメッセージを発する、あるいは管理職の理解も大事ではあるが、職場全体で働き方改革を進める機運醸成、理解促進を進めるために、なかなか難しいと思うが、いい知恵があれば教えてほしい。
(櫻井氏)
- ジェンカレに所属している学生が、育児体験できるVRを作っている。企業や自治体に体験してもらうことをやっており、VRを付けることで、朝起きてから寝るまでの行動や、突然熱を出したなどの状況をバーチャルで体験できて面白く、目の前に広がる世界なので、どうしたらいいかを考えるきっかけにもなっており、非常によいツールなので紹介させていただく。
(伊藤氏)
- 櫻井さんの意見と同じだが、管理職の方は、研修等で知ることはあると思うが、その次に体験があった方がよいのではないか。例えば、リカレント実習という形で、保育や教育の場に行ったとなると、部下からもあの人は理解があると思って、歩み寄れるところがあるかもしれない。職場で家庭のことを言うのはなかなかできないかもしれないが、日々の子育てを「こういうスケジュールでやっている」と伝えると、周囲からも打合せや帰宅時間に気を遣ってもらえ、また私自身も仕事をよりがんばろうとなるなど、互いの理解によってよい循環が生まれることを身をもって体験している。
(筒井氏)
- 周囲への気兼ねや直接迷惑と言われるというのは、特に日本の働き方で目立つ。海外と違って日本には職務記述書がなく、職務分担が不明確になってしまうので、日本の働き方は柔軟になり方になりにくく属人的になるというハンディキャップがある。欧州と同じやり方は難しいが、育休中の部分就業や育休の分割取得といった柔軟性が、周囲の抵抗を和らげるのではないか。民間企業での取組の一部として報道されていた、育休を取る周囲人に仕事が増えるからと手当を支給することは、制度化は厳しいかと思うが、場合によってはそういうやり方もあると思う。民間企業が取り組む場合のガイドラインの提示などしかできないかもしれないが、周囲の負担を和らげる方法は、まだやれることがあると思う。
(構成員)
- 若い人の意識が変わっている中、トップだけではなく、中間管理職以上のマネジメントとして、リカレント実習のようなものがあるとよいのではないか。このような慣習を変えることもあるが、やはり経済的負担の軽減の声もあると、給付と負担の話になり、負担を求めることにも直面する。こうした問題は春以降の話ではあるが、せっかく当事者の方々にお越しいただいているので、どのように向き合ったらよいのか、アドバイスがあったら教えてほしい。
(櫻井氏)
- 今の政府の少子化対策は、こどもを産んだ人、こどもを育てている人、すぐに産みたい人に向けた政策と感じる。これから産みたい人にはこういうことをやっていくというような、これからの人も対象だと思えるような制度の見せ方をしてほしい。もちろん今こどもがいて苦しい状況の人への支援も必要だが、それを見たからといってこれからの人が産もうと思うかというとそうではない。目先だけを見ているわけではないと示していただけるとよいのでは。
(構成員)
- 本日の発表資料でも、雇用の安定が重要と記載いただいている。従来の終身・長期雇用型の社会システムを少し改めることや、労働力の成長分野への流動化の促進など、従来型の雇用の安定を社会全体としても考え直さなければならない状況にあると考えている。一方で、こどもを育てていくということになると一定の安定性が必要だが、雇用の安定については、世代間でもイメージに違いがあると思う。お三方に聞きたいが、職業の安定の中身が大きく変わっていく時代の中で、今後の時代を考えたときに、雇用の安定にとって必要なものについて、ご示唆やご見解をいただきたい。
(筒井氏)
- 難しい課題。従来の比較的長期雇用と言われていた働き手が減ってきたのは間違いないが、安定雇用と不安定雇用とが二極化しているのが現状。少子化対策の目指すべきところがあるとしたら、働いていても働いていなくてもこどもをもてるという状態がよいが、実際は難しいだろう。先進福祉国家では、今は仕事はないが、そのうち見つかるし失業補償もあるということで、一緒に住む、こどもができるということの敷居がだいぶ低い。これに対し、日本は本当に結婚と出産の敷居が高すぎる。「安定した職業がない限り、絶対に結婚は無理だし、こどもをもつなんてとんでもない」という状況を緩和するためには、現在、雇用外にある人でも不安定な職業についている人でも、結婚してこどもをもってもよいのだという雰囲気づくりは目指すべきだと思うが、実際には難しい。
- 企業もしくは企業グループの中で配置転換や転勤を繰り返すような日本型雇用がいろいろな面で裏目に出ている。総合職型の、働く時間や働く場所、仕事内容を会社が決めるというような働き方と、それ以外の働き方のあいだの高い壁があることを改善すべき。残業なし、働く場所も固定すると、失業率が高くなるかもしれないが。欧州は失業率が高いが、出生率は日本より高い国が多い。雇用外の生活保障があるということが一つの安心感をもたらし、働き方や仕事しているかどうかが過度に家族キャリアに影響しないということがある。時間はかかると思うが、目指す方向としてはあるのかなと思う。
(構成員)
- 企業が職員の働き方がブラックかホワイトかなどの状況を開示することを通じて、制度をインストールするというやり方を推進しているのではないかと思うが、例えば新しく就職する学生や中途採用の方々にとって、それぞれの企業の育休制度等の情報が必ずしも十分に公開されていないから、櫻井さんが問い合わせを受けると仰っていたように、専門家に直接問合せが届くのではないか。開示場所が、企業のディスクロージャー誌だけではなく、どのようなところで開示されると一般の人にも届くのか、ご意見があれば伺いたい。
(櫻井氏)
- 同じようなことをなでしこ銘柄の件で聞かれたことがあるが、なでしこ銘柄はすごく分かりにくく、ハードルが高い。感度の高い学生は、企業の働き方に関する部分を見ていけば、ホワイトかブラック化が分かる、働き方にあまり取り組んでいない企業はやめようということが進んできている。これから、男女間賃金格差などを開示していくと、その傾向はより強まっていくのではないか。就職活動のときに、身だしなみ講座だけではなく、どうやったら自分の人生を自分で選択してかなえることができるのかという視点から企業を見るノウハウの共有があるとよいのではないか。学生の間で、エシカル就活が流行っている。社会にも人にもよりよい就活をしたいという考えが広がっているので、分かりやすいサイトを作り、企業を選ぶ観点などをゲーム感覚で知ることができるようにしていただけると、若い人にも浸透するのでは。デジタルの活用や、大学や高校など教育の部分など、複数のアプローチが必要。
(構成員)
- 厚労省では、「女性活躍推進企業データベース」を設け、数万社に登録いただき、男女間賃金格差も載せてもらうこととなっており、また、「両立支援のひろば」というサイトでは育休取得率なども載せている。ただ、昨年度の行政事業レビューにおいて、就活中の方々にその見方やポイントが分かりづらいとの指摘があり、今は、大学の就職部や学生センターの皆さんと連携して検討しているところ。次の4月からは、男性育休の取得率は、1,001人以上の企業は公表が義務化される。一つのきっかけになるので、今後、櫻井氏のような発信力のある方からも発信いただけるとありがたい。
(小倉大臣)
- 働き方改革と少子化対策のキーワードは、共働き・共育てだと思っている。我が国は、共働きがマジョリティになってきているが、共育てにはなっていない。育休取得率や無償労働の割合をみても、共育て社会を作っていかなければならない。また、本当の意味での共働きかというとそうではなくて、男女間の賃金格差もあり、企業における女性の役員割合も低い。真の意味で男女双方が育児と仕事の双方を追求できる社会を作るということがキーワードだと思っている。頂いた提言は、有識者の先生や当事者にも聞いてきたので非常に問題意識を共有している。3月末が目の前に迫っているのでしっかり具体化したい。
(構成員)
- (伊藤氏への質問)育休取得率は男性が14%である中で、男性で女性と同じレベルで育児をする人はマイノリティになると思う。男性が、こどもが生まれて育児する中で、相談したり仲間内で問題を打ち明ける場をどのように作っていけばよいのか。例えば、妊産婦には伴走型相談支援があり、地域の子育て支援拠点もあるが、相談に対応する人はほとんどが女性で、男性が育児しようと思って相談できる場所は現状少ない。このような中で、行政がどうやって支援すればよいか。また、男性の「取るだけ育休」に対してどう環境整備したらよいか。
(伊藤氏)
- 小倉大臣主催の両立支援サミットのような形で、官庁、民間企業など異業種の方々が話をしやすい雰囲気を作ることが大切かと思う。他社で働くパパ、ママ達とオンラインでイベントをすると、住む地域、業種など異なる人から話を聞くことができ、新たな発見がある。
- 妻とけんかする理由は、「育児やってよ」「やったよ」というギャップ。女性は男性が同じくらいやることを望むが、男性は自分の父親よりやっているということで、齟齬が生じる。若い子たちの、特に男性の基準を、家事育児をしている先輩にあわせることで、夫婦の認識の差は埋まっていくのではないか。こんなにやっている人がいるんだということを知ることで、知った人は自ずと家事育児をやっていくようになると思う。他社のいいところも自社のいいところも分かり、帰属意識も高まるなど、いい効果があると思う。
- 「取るだけ育休」は目下の最大の課題。奥さんが期待したのに育休を取ったらいるだけ、こどもがもう一人増えたとなるのはよく聞く声。育休を取る人に私が伝えているのは、①育休前にどのような準備したらよいか、②育休中に何をしたらよいか、③育休後どのように両立すればよいか、この3つの着眼点を伝えている。実体験を踏まえて次の後輩に伝え、ノウハウを蓄積してくことが重要。政策としてできるのであれば、両親学級に当事者の声を入れてノウハウが蓄積されるようにしてはどうか。暗黙知になっているのはもったいない、それをどう形式知化していくか、そういった仕組みができると育休の質も高まり、「取るだけ育休」は解消されるのではないか。
(構成員)
- (櫻井氏への質問)お金がかかる、趣味に時間がとれなくなるとか、仕事以外の自己研鑽が図れなくなることなど、結婚して子供を持つことが人生の選択肢を狭めてしまうという意識が若い人にあると思うので、そうではなくて、独身も子育て中の人も同じように人生を楽しむことができるというメッセージを出したい。例えばこどもが障害をもって生まれたとしても、あるいは親が経済的に苦しくなったとしても、ひとり親になったとしてもこどもが健やかに成長できるような環境をつくっていくというメッセージは出したいと思います。
- また、様々なリスクやコストがなくなりますと言っても、こどもを持つ喜びや楽しさをリアルに感じてもらい、楽しいですというメッセージが加わらないと、こどもを持つという人生を選んでくれないと思う。就活する時点で男性が育休環境の整った企業を選ぶようになっているという話があり、会社に入ってこどもを持つというイメージを持ってくれているのだと思うが、こどもを持つことに対してリアルな体験を用意していかないと、様々なコストやリスクがなくなったとしてもこどもを持つという選択肢を取らないのか、その辺りの若い人たちのリアルな感情を教えてほしい。
(櫻井氏)
- 私の資料の最後の部分が全部こうじゃなくなるというメッセージを、政府が発することが始まりで、それが実体が伴っていくと、SNSのネガティブワードがポジティブワードになったり、ドラマでもネガティブ発信が変わっていくように、真逆だし制度もあることをつくっていった上で、制度を使った人が変わったと思ってもらって口コミが増えることが大事。
- こどもを持つ喜びについて、そういった体験ができることは、イメージができてよいが、皆が皆やらなくてもよいのでは。皆が生きる喜びを感じていて家族の喜びを感じているかというとそうではない。よい思い出がない人は、強制されるとより嫌な気持になる人もいるので、悩んでいる人に対して、そういう体験もできるということをオプションとして、国なのか、自治体なのか、大学もあるかもしれないが、用意することがよいのではないか。まずは制度を作って、選べるようになって、効果を実感する人が増えて、結婚したいと思ったときに様々なオプションがあるということが増える、と少しずつ変わっていくのではないか。イメージがよくないところがあるので、そこを変えていくということが重要ではないか。
(構成員)
- (筒井氏への質問)日本の転勤制度について、私が社会人になった20年前に、先輩からマイホームを買ったら転勤させられると言われた経験がある。転勤により、その人の地域における人間関係も、配偶者のキャリアも、単身赴任でなければこどもの環境も大きく変わるのに、日本の大企業では転勤制度が前提になっているところが多い。これまでの働き方改革は、どうしても長時間労働の是正とか、生産性を高めて賃金を上げるなど、時間の無限定をなくすということがトップアジェンダに来て、場所はそこまで意識して議論されてこなかった。働く場所も含めた働き方改革をどう進めていけば良いか、知見があれば教えてほしい。
(筒井氏)
- 転勤についてだが、転勤をさせる理由にはいろいろあり、グローバルに見て非常にまれな制度ではある。基本的には住む場所は自分で選ぶというのがグローバルスタンダードだが、日本では、一つは銀行などで癒着を防ぐといった理由、もう一つは労働力調整の手段、つまり人手が少ないところに人手が余っているところから人をもってくるために、転勤制度が利用されている。これが家族キャリアにとってはネガティブな影響を持つ。ただ、いきなりやめると失業率が高くなるなど副作用がある。他方で無駄な転勤はあるので、これを防ぎたいということであれば、一つは「見える化」がある。どの業種や企業でどのくらいの転勤が行われており、また減っているのかということを見やすくする。もう一つはリモートワークを活用して、住む場所は固定したいという要望にできるだけ応えるということ。それができる職種は2割くらいしかなく、小手先に見えるかもしれないが、周辺のところから総合的に変えていくとそのうち効果があるのではないか。
(小倉大臣)
- 若い人たちに、こういう生き方があるということ、こういう生き方を具体的にイメージできるものをきちんとお示しして、その具体的な生き方を選択した場合に制度的な支援があるという発信を、これまでとは違う政策の発信をしないといけないのではと思っている。伊藤氏が提案してくれた両立サミットのようなもので、伊藤氏のような生き方があることを多くの人が知ってもらえるよう、厚労省と連携して取組を進めていきたい。他方で、櫻井氏がおっしゃたように、生き方の強制にならないように気を付けたい。あくまで人生の選択は個人の自由と担保した上で、政策をしっかりと進めていきたい。
- これまで、1月に総理からご指示いただいた3つの基本的方向性に沿って、ヒアリングを進めてきたが、総理の冒頭発言にもあったとおり、これまで関与が薄いと指摘されてきた企業や男性も含めた社会全体の意識の変革が大事なポイントになると考えている。また、すべての子育て家庭を対象とした支援について、普遍的な視点で、議論を進めてきたが、こどもの貧困、障害のあるこどもや社会的養護が必要なこどもなど、様々な支援ニーズへの対応も重要。
- こうした状況を踏まえ、たたき台の取りまとめに入る前に「こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革」及び「多様な支援ニーズへの対応」について、追加で、ヒアリングを行うこととしたい。